<特別上映>アフリカと日本のストリートから芸能を考えるー川瀬慈作品特集(3作品)ー


「ラリベロッチ-終わりなき祝福を生きる-」

「ラリベロッチ-終わりなき祝福を生きる-」

エチオピア高原北部を広範に移動する“ラリベロッチ(単数:ラリベラ)”と呼ばれる唄い手たちは、早朝に家の軒先で唄い、乞い、金や食物を受け取ると、その見返りとして人々に祝詞を与え、次の家へと去っていく。ラリベロッチのこうした活動は、瞽女(ごぜ)や春駒など、農作物の豊穣や家族の平穏を祈って各地を回ったという、わが国の門付(かどづけ)芸能者や、托鉢の僧侶の姿を思い起こさせる。
ラリベロッチは、唄うことを止めるとコマタ(アムハラ語でハンセン氏病の意)を患うという差別的な言説のもと、謎に満ちた集団として人々のあいだで語られてきた。ナレーションや解説字幕を極力排した本作は、ラリベロッチの老夫妻が、エチオピア北部の古都ゴンダールにおいて行った活動を記録した。ラリベロッチは、近所の住人たちに家々の主の名前、宗教、職業、家族構成等の情報をあらかじめ取材し、歌詞の内容へと反映させていく。そして金品などの喜捨を受け取ると、祝福の台詞をその人物や家族へ捧げ、次の家へと移動する。ラリベロッチに対する人々の反応は一様ではない。そこからは、親しみ、侮蔑、羞恥など人々の様々な感情が伺える。ラリベロッチ側も、たとえ人々に拒絶されても決してひるまず、絶妙なジョークによってその活動を正当化しつつ、人々の彼らに対する好意的な反応から邪険な対応にいたるまでユーモラスに歌唱にとりこんでゆく。芸能を生み出す根源的な力がエチオピアの路上に生きている。

30分/2005年、2007年(再編集版)
撮影:川瀬 慈、ジャマル・モハメッド
編集・録音:川瀬 慈
使用言語:アムハラ語(日本語字幕)
撮影場所:ゴンダール エチオピア連邦民主共和国
撮影:2004年


「アシェンダ!エチオピア北部地域社会の女性のお祭り」

「アシェンダ!エチオピア北部地域社会の女性のお祭り」

アシェンダはエチオピア北部ティグライ州やアムハラ州各地において8月下旬に開催されるお祭りである。はなやかに着飾った若い女性のグループが太鼓をたたきながら軒先で歌い踊ると同時に、道行く人々を祝福していく。アシェンダはエチオピア北部の代表的な宗教であるキリスト教エチオピア正教会の信仰の支柱である聖母マリアを称え、子孫繁栄を願うことを目的に行われるとされる。近年は、ティグライ州観光文化局が観光資源、無形文化遺産としてのアシェンダの可能性に着目し、このお祭りを再創造し、プロデュースする動きがみられる。本作では、政策のなかで大きく変容するアシェンダを様々な角度から記録し、当祭祀に人々が求める世界を描く。

37分/2020年
撮影・編集:川瀬慈、野原位
監督・監修:川瀬慈
言語:アムハラ語、ティグレ語(日本語字幕)
撮影場所:メケレ、テンビエン、エチオピア連邦民主共和国


「春駒-群馬県川場村門前地区のまつり-」

「春駒-群馬県川場村門前地区のまつり-」

春駒は、群馬県利根郡川場村の吉祥寺境内にある金甲稲荷神社の祭日に奉納されるお祭りである。 おっとう、おっかあ、むすめに変装した若者たちが、歌と踊りを披露しながら 門前地区内の家々を廻り、家内安全と豊作を祈願していく。本作では、門付け芸における演者の若者たちと地域社会の人々のやりとりの詳細を記録。

40分/2013年
撮影:川瀬 慈
編集・録音:川瀬 慈
使用言語:日本語
撮影場所:群馬県利根郡川場村門前地区


川瀬慈

映像人類学者 国立民族学博物館/総合研究大学院大学准教授
1977年岐阜県生まれ。エチオピアの吟遊詩人の人類学研究、民族誌映画制作に取り組む。
人類学、シネマ、アート、文学の交差点から人文学における創造的な叙述と語りを探求する。近年は、国際ジャーナル TRAJECTORIA の編集、Anthro-film Laboratory の共同運営を行い、客員教授としてハンブルグ大学(2013年)、ブレーメン大学(2014年、2016年)、山東大学(2016年)、アジスアベバ大学(2018年)等で映像人類学の理論と実践について教鞭をとる。主な著作に『ストリートの精霊たち』(世界思想社、2018年、第6回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞)、『あふりこーフィクションの重奏/遍在するアフリカ』(編著、新曜社、2019年)。代表的な映像作品に『僕らの時代は』『精霊の馬』『Room 11, Ethiopia Hotel』(イタリア・サルデーニャ国際民族誌映画祭にて「最も革新的な映画賞」受賞)。